所長からの今月のひとこと【㉖】~実際にあった労働相談より~
第26回は「パワハラ裁判例」です。
昨年皆様のご関心が高かった「パワーハラスメント」に関して、数多くの裁判例から代表的な3例をご案内いたします。(厚生労働省「明るい職場の応援団」参照)。
1.
ハラスメントで代表取締役個人の損害賠償が認められることがある!
6類型:過大・過小な要求
事案の概要
個品割賦事業部と旅行事業部を営む会社で、旅行事業廃業の方針に伴い、担当していた労働者を退職に追い込むべく、「労働者の担当業務が多忙を極めていたが、他の労働者に支援させなかった」「担当職務を解いた後は、補助的業務以外させず、資料置き場になっていた席への移動を命じる」等を会社が行った事案。
裁判所の判断
「席替えなどの一連の行為は労働者を退職させるための嫌がらせであり、また、代表取締役の指示ないし了解の下に行われたのだから、代表取締役個人及び会社が連帯して損害賠償責任を負う。」と判示されました。
判決のポイント
本件では、2名の代表取締役個人の損害賠償責任が認められています。代表取締役といえども会社で起きた全ての出来事につき個人として結果責任を負うものではなく、故意・過失があることの立証が必要とはなりますが、本件においては、民法上の不法行為に基づく使用者責任が問われました。
2.
有給休暇の取得妨害がハラスメントとして認定されたケース!
6類型:その他(優越的な関係を利用、労働者の就業環境を害する行為、コンプライアンス違反)
事案の概要
塾講師である労働者が、有給休暇取得を申請したところ、上司が「有給申請により評価が下がる」などと発言して有給休暇取得を妨害し、総務部長や会社代表者らが上司の行為を擁護する発言を行った事案。
裁判所の判断
有給休暇取得の妨害に関して、上司の発言は、労働者の有給休暇を取得する権利を侵害する行為であるとして違法と判断されました。
又、会社の代表者が、全社員参加する社員集会において、上司の行為につき「あんなものは、私はパワハラだとは思わない。」「今後、有給休暇はよく考えてから取るように。」と発言したことについて。判決では、違法として、20万円の慰謝料支払が命じられました(請求は50万円)。
判決のポイント
「有給休暇は、労働者が時季を特定して請求すれば、使用者が適法に時季変更権を行使しない限り、使用者の承認なくして成立する(全林野白石営林署事件・最二小判昭和48年3月2日判決)」という判例法理が確立されています。使用者が時季変更権を行使せずに、有給休暇の取得を妨げることは許されないともされています。
本件では、上司が労働者の申請に対し、時季を変更することなく、「有給休暇をとれば評価が下がる」と受け取れるような発言をしたことは、上司が労働者の一次考課者であったこともあって、その地位を利用して有給休暇取得申請の取下げを強要したものであって、違法と判断されました。有給取得を抑制する発言や賞与の査定を下げる等の対応がたまに見られますが、ハラスメントとして、行為者も会社も責任を問われる可能性がありますので、企業全体で再認識するようにしてください。
3.
パワハラの事実は労働者の主張のみで、客観的な証拠がないとしてパワハラが認められなかったケース
6類型:身体的・精神的攻撃
事案の概要
元従業員である労働者が、会社内の先輩従業員から指導の名の下に暴言・暴行等のパワーハラスメントを受けたとして、会社に対し、不法行為又は労働契約上の安全配慮義務違反に基づき慰謝料の支払いを求めた事案。
裁判所の判断
元従業員が主張した多くの主張については、証拠がないとされ、パワハラについて元従業員の請求は退けられました。
判決のポイント
本件では、事実関係において、原告と被告の主張が激しく対立しました。
判決では、元従業員が主張したパワハラの事実は、そのような事実があったという証拠に関しては、元従業員の陳述のみで、他に客観的な証拠がないという理由で認められませんでした。
社内調査をし結論を出す際、加害者及び被害者双方の言い分をヒアリングするだけでなく、周囲の多くの労働者から十分にヒアリングを行う等をして、事実関係の把握を慎重に行うことが重要です。又、事実が確認されなかった場合でも、「再発防止の徹底」がパワハラ防止指針で措置義務として求められていますので、その点もご留意ください。
以上、「裁判でハラスメントが認められた例」2例と、「認められなかった例」1例をご紹介しました。
パワーハラスメントに該当するか否かは、「グレーゾーン」が非常に広く、安易に結論を導くことは、「企業リスク」となる可能性がありますので、慎重にご対応いただくとともに、「民事」ですので、裁判例を注視するようにしてください。