所長からの今月のひとこと【㉕】~実際にあった労働相談より~
第25回は、労働相談のご質問で最も多い「年次有給休暇」についてです。
1.年次有給休暇は「休暇」
年次有給休暇は、労働者の心身をリフレッシュさせ、労働生産性を上げ休養を取るための「休暇」です。「お金」の問題と捉えられがちですが、そうではありません。
その分の賃金を払えば有給休暇を認めなくてもよいというのは間違った考え方です。
又、事業場の休業日である「休日」とは違います。
「労働義務のある日の労働の免除」なので、もともと労働義務のない「休日」に年次有給休暇を充てることはできません。
2.年次有給休暇は事業主が「与える」ものではない
年次有給休暇は、労働者が雇い入れの日から起算して6か月継続勤務し全労働日の8割以上出勤した場合、法律上当然に、発生する権利です。日数も法律で決められています。
因みに、労働者が「事前に」申請して初めて権利が確定します。
「事後」に労働者が申請してきても、事業主はそれを認める義務を負いません。
3.労働時間に対する考え方
「36協定」「フレックスタイム制」等の場合、「実労働時間」でカウントするものは、年次有給休暇の時間はカウントしません。給与計算ソフトや勤怠管理システムにおいて、半日単位を4時間、1日単位を8時間として加算する運用が多くみられます。正しくは、「働いた」とみなして実労働時間に加算するのではなく、「労働を免除された」ので所定労働時間から減算するものです。
4.年次有給休暇は「暦日」が原則
年次有給休暇は、「暦日(午前0時~午後24時)」が原則です。
「半日単位の年次有給休暇」は、労働者がその取得を希望して時季を指定し、これに使用者が同意した場合は認められています。その場合でも、「本来の取得方法による休暇の取得の阻害にならない範囲で適切に運用される場合であること」「労働者が1日単位で年次有給休暇の時期指定をしているにもかかわらず、これに反して、使用者が半日単位で年次有給休暇を付与することはできないこと」が条件となっています。
トラブルを未然に防ぐために、就業規則で、「半日の時間」「その際の賃金」を決めておきましょう。
5.夜勤の場合の考え方
「夜勤」で2暦日にまたがる場合、その夜勤に年次有給休暇を充てるケースでは、原則、年次有給休暇を2日消化することになります。
但し、「8時間3交代制勤務の2暦日にまたがる交代番」及び「常夜勤勤務」の場合は、当該勤務を含む継続24時間を1労働日として、1日の消化でよいことになっています。(日勤と夜勤が1人の労働者で併用されている場合は該当しません)
6.定年後再雇用等の勤続年数の考え方
「継続勤務とは、労働契約が存続している期間の意であり、いわゆる在籍期間のこと」です。「労働契約が存続しているか否かの判断は実質的に判断されるべき性格のもの」と考えられているため、労働契約において前後の「事業主」が実質的に労働関係が継続している場合は、その期間は通算されることになります。
「会社の合併」「事業譲渡」「会社分割」の場合も、労働契約がそれに伴い承継された場合は前後で継続勤務年数は通算されると考えられています。
7.所定労働日数が決まっていないパートの年次有給休暇日数
年次有給休暇日数を決める所定労働日数は、「基準日(年次有給休暇が発生する日)における契約上の所定労働日数による」こととなっており、基準日~基準日の間で労働契約の内容に変更があってもその期間の年次有給休暇の日数に変更はないことになっています。
週所定労働日数が4日以下かつ週所定労働時間が30時間未満の場合、比例付与の表において、「週所定労働日数」の欄より、不明な場合は、「1年間の所定労働日数」の欄で日数が決まります。
基準日において所定労働日数が決まっていない場合には、基準日における過去1年間の出勤日数を表の「1年間の所定労働日数」欄にあてはめ日数が決まります。初年度は過去6か月間の出勤日数を2倍することになります。
8.休暇の買い上げの禁止と例外
「年次有給休暇の買い上げの予約をし、これに基づいて法第39条の規定により請求しうる年次有給休暇日数を減じないし請求された日数を与えないことは、法第39条違反である」(昭30・11・36基収第4718号)とされており「刑事罰」になります。
但し、「時効により消滅した年次有給休暇」「退職により消滅する年次有給休暇」「法定日数を超えて与えられている年次有給休暇」の3つに関しては、例外的に認められています。
9.最後に
上記以外にも、「使用者の時季指定による年5日の取得義務(罰則付き)」「時間単位年休」等々論点がたくさんあり、有休に関する監督署への申告に端を発して長時間労働の是正指導が行われるようなケースもあるようですので、今一度再検証をお願い致します。
参考文献:労働法コンメンタール