所長からの今月のひとこと【⑳】~実際にあった労働相談より~

第20回は、「就業規則」についてです。

労働者が安心して働ける明るい職場を作ることは、事業規模や業種を問わず、すべての事業場にとって重要なことです。そのためには、あらかじめ就業規則で労働時間や賃金をはじめ、人事・服務規律など、労働者の労働条件や待遇の基準をはっきりと定め、労使間でトラブルが生じないようにしておくことが大切です。

最近、労働者が監督署に行き、それがもとで事業所への一斉調査が行われる、というような事例もあるようなので、再度基本的なことを確認しておきましょう!

⒈         就業規則の内容

就業規則に記載する事項には、必ず記載しなければならない事項(以下「絶対的必要記載事項」といいます。)と、各事業場内でルールを定める場合には記載しなければならない事項(以下「相対的必要記載事項」といいます。)があります(労働基準法(昭和22年法律第49号。以下「労基法」といいます。)第89条)。このほか、使用者において任意に記載し得る事項もあります。

絶対的必要記載事項は次のとおりです。

①労働時間関係

始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を2組以上に分けて交替に就業させる場合においては就業時転換に関する事項

②賃金関係

賃金の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項

③退職関係

退職に関する事項(解雇の事由を含みます)

相対的必要記載事項は次のとおりです。

①退職手当関係

適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払の方法並びに退職手当の支払の時期に関する事項

②臨時の賃金・最低賃金額関係

臨時の賃金等(退職手当を除きます)及び最低賃金額に関する事項

③費用負担関係

労働者に食費、作業用品その他の負担をさせることに関する事項

④安全衛生関係

安全及び衛生に関する事項

⑤職業訓練関係

職業訓練に関する事項

⑥災害補償・業務外の傷病扶助関係

災害補償及び業務外の傷病扶助に関する事項

⑦表彰・制裁関係

表彰及び制裁の種類及び程度に関する事項

⑧その他

事業場の労働者すべてに適用されるルールに関する事項

なお、就業規則の内容は、法令及び当該事業場において適用される労働協約に反してはなりません。法令又は労働協約に反する就業規則については、所轄労働基準監督署長はその変更を命ずることができます(労基法第92条)。

2.   就業規則の作成及び変更の手続

労基法は、労働者を1人でも使用する事業場に適用されますが、就業規則については、常時10人以上の労働者を使用する事業場においては、これを作成しまたは変更する場合に、所轄労働基準監督署長に届け出なければならないとされています(労基法第89条)。

また、就業規則は、企業単位ではなく事業場単位で作成し、届け出なければなりません。

就業規則を作成し、又は変更する場合の所轄労働基準監督署長への届出については、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合はその労働組合、過半数で組織する労働組合がない場合は労働者の過半数を代表する者の意見を記し、その者の署名又は記名押印のある書面(意見書)を添付しなければなりません(労基法第90条)。                

 就業規則の作成又は変更に当たっては、その内容をよく吟味するとともに上記の手続等を遵守しなければなりません。特に、就業規則を労働者にとって不利益に変更する場合には、労働者の代表の意見を十分に聴くとともに、変更の理由及び内容が合理的なものとなるよう慎重に検討することが必要です。 

3.   就業規則の周知

作成した就業規則は、労働者の一人ひとりへの配付、労働者がいつでも見られるように職場の見やすい場所への掲示、備付け、あるいは電子媒体に記録し、それを常時モニター画面等で確認できるようにするといった方法により、労働者に周知しなければなりません(労基法第106条第1項)。

就業規則は、作成して労働者の代表者から意見を聴取しただけでは効力は発生しないと解されています。就業規則の効力発生時期は、就業規則が何らかの方法によって労働者に周知された時期以降で、就業規則に施行期日が定められているときはその日、就業規則に施行期日が定められていないときは、通常は労働者に周知された日と解されています。

「企業の労務管理リスクの回避」「より良い事業所づくり」のために、法改正にきちっと対応しているかどうか含め、就業規則を整備し、充実させることは必須といえます。

次回は、「就業規則のチェックポイント」をお話ししたいと思います。

追伸

「定額減税」についてご注意ください!

年末調整で一括して定額減税を行うことは可能か?(厚労省の見解は)

令和6年の所得税の定額減税について、対象労働者に対して、本年6月以後の賃金での定額減税を先送りして年末調整で定額減税を行うことは可能でしょうでしょうか?

この点については、そもそも、国税庁が、Q&Aなどで、まずは、必ず、令和6年6月以後の給与・賞与で、定額減税を実施すべき旨、周知していました。

これを、労働基準法の賃金支払の原則との関係でみてみるとどうでしょうか?

あまり、公にされていませんが、次のような厚生労働省の通達が発出されており、その中で、次のような考え方が示されています。

――― 令和6年分所得税の定額減税に係る申告、相談等への対応について

(令和6年基監発0530第1号)から抜粋 ―――

1 労基法第24条第1項との関係

労基法第24条第1項において、「賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない」こととされ、その例外として「法令に別段の定めがある場合」においては、賃金の一部を控除して支払うことができるとされている。

仮に、対象労働者に対して、本年6月以後の賃金での定額減税を先送りして年末調整で定額減税を行った場合には、6月以後の賃金について、本来、源泉徴収すべき税額より過大な税額を控除することになり、こうした過大な税額の控除については、労基法第24条第1項の例外の要件である「法令に別段の定めがある場合」に該当すると評価することはできないことから、同法第24条第1項違反になるものと考えられる。

2 申告、相談等に係る対応について

⑴ 労働局及び労働基準監督署の関係職員への周知等

上記1の考え方について、労働局及び労働基準監督署の監督部署職員(非常勤職員を含む。)及び総合労働相談員に対して周知するとともに、定額減税と労基法第24条第1項との関係について相談があった場合には、上記1の考え方に基づき対応すること。

⑵ 本省への報告

定額減税に関して、労基法第24条第1項違反であるとして申告がなされ、これを受理した場合には、申告処理台帳等の関係書類とともに、直ちに、本省労働基準局監督課監督係まで報告すること。

☆ このような考え方や労働局・労働基準監督署の対応の方針が示されていますので、「年末調整で一括して定額減税を実施する」といったことは、考えない方がよいでしょう。

因みに、今のところ私たち総合労働相談員のところへは、未だ相談はありません。