所長からの今月のひとこと【⑲】~実際にあった労働相談より~
第19回は「紛争解決制度について(前編)(法違反と民事の違い)」です。
「コロナ」が5類に移行して以来、職場で顔を合わせる機会が増え、コミュニケーションがうまくいかず、職場内でのハラスメント等の相談が増えています。
又、廃業または事業規模縮小を余儀なくされる事業所が増え、「解雇」「雇止め」等の労使による相談も増えてきている気がします。
このような問題を解決するために、事業主様も多大な時間と労力を費やさなければなりません。今回は、「労使間の紛争を解決する制度」について解説いたします。
「賃金・残業代未払い」「年次有給休暇を取得させてくれない」「パワハラ」「いじめ・嫌がらせ」「不当解雇」「賃金引下げ」「雇止め」…等々、すべて同じ「労働問題」と捉えていませんか?
それぞれは、「労働基準法等の強行法規違反として扱われる問題」と、「最終的には裁判所が判断し違法かどうか決める問題」とに分かれ、解決の仕方に違いがあるのをご存じでしょうか?
「賃金未払い、残業代未払い、年次有給休暇を取得させない」
これらは、「労働基準法違反」で、罰則もあり、即行政指導の対象となります。
対して、「不当解雇・雇止め、パワハラ・いじめ嫌がらせ、賃金引下げ」
これらは、「民事的な問題」で最終的には裁判所の判断を仰ぐことになります。
パワハラに関する窓口の措置義務違反等の一部を除いて、強制力を持った行政指導の対象ではありません。
「法違反」は、労基署の是正勧告の対象であり、「悪質」と判断された場合、検察へ書類送検され刑事事件化される可能性があります。又、企業名が公表される場合もあります。「企業イメージが低下する」「優秀な人材を確保できない」等のリスクを負いますので、適切に対応してください。
「民事」の解決の仕方には、「行政の紛争解決援助制度」「社労士会等の民間ADR制度を活用したあっせん」と「司法手続きによる解決」があります。
行政による紛争解決制度
「行政による紛争解決制度」には、「都道府県労働局長による助言指導」「紛争調整委員会によるあっせん」という制度があります。「助言指導」では、裁判等に至った場合の企業側のリスク等を助言してくれるので参考にしてください。
「あっせん」は、費用が無料の上短期間で終了するので、早めに決着をつけたいときに有効です。
どちらも強制力はありません。労働者の申出を精査し、対処を考えましょう。
社労士会等の民間ADR制度によるあっせん
行政によるあっせんは、基本的に、1回のみですが、民間ADRは複数回行われる場合があります。内容は、行政のあっせん制度とほぼ同じです。
司法手続きによる解決
「民事調停」…簡易裁判所において、裁判官1名と2名以上の調停委員により話し合いがもたれる制度です。行政のあっせん等と違い、正当な理由なく不出頭の場合、過料が科せられます。一般的には、短期間で決着し費用が抑えられるといわれています。
「少額訴訟」…60万円以下の金銭の支払いの場合に、簡易裁判所で行われる裁判です。主張書面を提出せず不出頭の場合、原告の主張を認めたものとされる場合があります。
「労働審判」…地方裁判所において、労働審判官1名と労働審判員2名によって行われる話し合いです。正当な理由なく不出頭の場合は、科料が科せられます。不調の場合労働審判委員会の審判がくだされ、不服が申し立てられた場合、訴訟へと移行します。
「民事訴訟」…いわゆる「裁判」です。140万以下の金銭支払いは「簡易裁判所」、140万超の金銭支払いは「地方裁判所」からスタートします。
「民事調停」「少額訴訟」は、弁護士選任が必須ではないと言われており、「労働審判」「民事訴訟」は、弁護士を選任する場合が多いと言われています。
次回「後編」は、「解決機関の整理と助言指導・あっせんの実例をご案内します。